思い出のマーニー

思い出のマーニーを公開初日に見た。ネットでささやかれているような女の子同士の愛、いわゆるレズとか百合とかそういうのが前面に出ている作品ではなかった。

 

 

あらすじ

ネタバレ含む、最後までのあらすじ(あらすじとはもう呼べない気がする)をぼくなりに書き連ねておきます。

 

心を閉ざした少女と、青い窓に閉じ込められた少女の出会い。主人公・杏奈は現代語で言えば「ぼっち」。里子に出され、周囲の当たり前の生活をしてる同級生と自分の違いに苦しむ。里親が自分に隠して自治体からの給付金をもらっている書簡を見て、お金をもらっているからここにおいてもらえる、そんな風に考えたりもした。人と触れ合うことを苦手、いや、避けていて、持病のぜんそくには心因性のものもあるということで夏休みに田舎の親戚の家にリフレッシュ休暇のような形で赴く。そこで出会う金髪の少女マーニー。少し懐かしいような気はしたが、思い出すことはできない。マーニーはそれを裏付けるかのように杏奈の事を知っている。夢で見たマーニーは現実となって現れる。しかし毎回マーニーと会うときの最後は気を失っていて、夢か現実かの区別すら危ういあやふやな存在。何度も会ううちに杏奈はマーニーだけには心を開く。自分の内側にあるモヤモヤを打ち明ける。自分で自分を壊してしまいそうな杏奈の悩みにマーニーは励ましてくれる。マーニーが住んでいた屋敷には新しい家主が入ることになって、マーニーはもうすぐ会えなくなると告げた。屋敷の住人となる少女と杏奈は出会う。屋敷からはマーニーが書いたと思われる日記が出てきて、夢の中、自分が作り上げたと思っていたマーニーが現実にいることに驚く杏奈。マーニーは現実にいた。いろいろと調べていくうち、マーニーは悲しい運命を背負っていた。パーティがだいすきな親からは愛を十分に受けず、使用人や家政婦にはいじめを受け、結婚した幼馴染には先立たれ、病を患い、子育ても満足にできないマーニーは一人娘・恵美理を全寮制の学校に入れた。卒業して帰ってきた恵美理は幼いながらに寮に入れたマーニーに冷たく当たり、彼氏と駆け落ちして家を去った。そんな恵美理たちが子供を産んですぐに事故で死んだ。マーニーは孫である恵美理の娘を引き取り一生懸命育てたが、マーニーは持病で死んだ。孫は施設に預けられ、里親に引き取られたという話をマーニーの幼馴染でもあった杏奈と絵描きでつながった近所の久子おばさんから聞いた杏奈。夏休みも終わり札幌にある実家に帰る杏奈を迎えに母が田舎に赴いた。杏奈が家から姿を消してさびしかった母は小さいころのアルバムを見返していた。そこで杏奈が今の家に来たときに握りしめていた写真を見つけて懐かしくなり、杏奈の元に持ってきていた。杏奈が受け取ると写真にはマーニーの屋敷が映っており、裏には「私の大好きな家 マーニー」と書かれていた。そう、すべてがつながった。マーニーは杏奈の祖母だったのだ。そして母から給付金の話をされ、母親への不安が杏奈の中から消えていく。田舎から帰るときにはお世話になった人々へ挨拶へ回る杏奈。田舎に来た時には無口だった杏奈も今ではすっかり元気になっていた。

考察

見終わってまず思ったのは、難しい。ジブリ作品にあまり似合わない年齢層高めの作品に仕上がってる。原作も小学校高学年向けの作品となっていて、同じ映画館にいた子供はつまらなそうにあくびをしていた。伏線もわかりやすいしすべて回収済み、ミスリードもしっかりとあってオチは納得。完成度は非常に高い。

冒頭の「この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間。」ってのがわからない人は結構内容を理解できなかったりするかもしれない。これ本当に児童文学なの?そう思いたくなるほど内容は秀逸。杏奈の目が青くて、それを触れられるシーンなんかただのイメージじゃなくて作中でも珍しい青い色の目なんだってのをしっかりわからせてくれて、ン?ってなるし、里子に出されるまでの話の間とか杏奈がマーニーそっくりの人形を抱えてたりして、ン?ってなるし、勘が鋭くないぼくにとっては最後にすべてのピースがカチリカチリと音を立てて嵌っていく感じがすごく良かった。

そして、なによりマーニーが出てきたことに意味があるような感じがぼくはあって好きだった。多感な時期に、自分が嫌いで葛藤する杏奈に、それを励ますマーニー。自分で自分を壊してしまいそうなくらいにモロい杏奈をマーニーが支える。マーニーがいたことで杏奈は立ち直れた気がする。ラストに杏奈の祖母がマーニーということがわかってから思い返すと、自分の大切な孫にどうにか元気になってほしい、自分を嫌わないでほしいという強い親の愛情のようなものがあって出てきたのではないか。そんな風に考えられるのだ。自分とは正反対で何もかもそろっているマーニーを見て、杏奈はマーニーがうらやましいと吐露するが、反対にマーニーには里親にもらってくれる今の母親から受ける愛は紛れもない真の愛情であると杏奈に語り、マーニーは杏奈がうらやましいという。もともと友達もおらず、答えは自分の中だけで決めて自己完結で終わっていた杏奈が他人との比較、意見交換で新しい見解を得る。マーニーが居なければ獲得できなかっただろう。予定調和なジブリ作品。最後はハッピーで終わる傾向が強く、バッドエンドにはならないと思っていたが、「借り暮らしのアリエッティ」の米林宏昌がメガホンをとる。「借り暮らしのアリエッティ」はラストがアリエッティの安住、人間側の主人公・翔の心臓病の手術の結果は描かれず、ハッピーエンドは約束されていないエンディングだった。そう考えればマーニーがどう転んでいくのかもわからず、予告編では「なぜわたしを裏切ったの、マーニー」という杏奈のセリフ。エンディングが捻れる可能性も視野に入れなくてはならなかった。しかし、見終わってみれば、アリエッティ同様作品としては満足のいくもの。アリエッティ以上にマーニーはいい作品だった。

百合とかレズとか女の子同士の愛を期待している腐っている方々(皮肉ではない)には少し期待外れな感じは否めないけれど、なんにせよこの作品と出会えるきっかけの幅が広がったのはいいことだと思う。見てもらえば、もうジブリの土俵。ラストにはすがすがしい満足感が待っているはず。マーニーが幽霊だった的なベクトルで話をすれば賛否両論であろうが、満足感を消すには至らないだろう。

友人からの誘いで見に行ったので、公開前から楽しみにしていたわけではない。しかし今ではすっかり大好きな映画作品に名を連ねるくらいに好きになってしまい原作訳本まで買ってしまう始末。映画はやはり原作としてのジョーン・G・ロビンソンであり、日本仕立ての内容になっている。舞台も原作はイギリスのノーフォーク。湿地帯という共通点以外何の接点も映画とない。田舎のステレオタイプも日本とイギリスでは全然違っていて、家具もまた違うのはお分かりだろう。原作としてエンドロールに上がっているけれど、作品は一味も二味も違っている。読み始めてまもないが、すでに原作のイギリスっぽさと映画の日本臭さとの違いに楽しんでいる状況である。

この夏、恋愛ものの映画が宣伝ばかりしていて多い中、オススメしたい映画の一つだ。是非劇場に足を運び見てもらいたいものである。裏切りはあっても後悔はしない、そんな作品だから。(おしまい)